役務収益と役務原価は、主にサービス業で発生する勘定科目です。
サービス業における収益が役務収益に計上され、売上原価が役務原価に計上されます。
役務収益と役務原価は、日商簿記2級の試験範囲です。
この記事では、役務収益と役務原価の仕訳、会計処理について解説します。
目次
役務収益とは
役務収益とは、役務の提供による収益のことをいいます。
なお、「役務」とは「サービス」のことであり、「役務の提供」と「サービスの提供」は同じ意味です。
具体的には、ホテルや旅館などの宿泊先の提供、弁護士など士業の顧問契約、予備校の講座などが役務の提供に該当します。
売上と役務収益の違い
売上と役務収益の違いは、「モノを売る」か「役務の提供」かどうかです。
商品売買業などでは商品を販売したときに「売上」勘定を使用しますが、サービス業などでは役務を提供したときに「売上」勘定ではなく「役務収益」勘定をします。
業種 | 商品売買業 | サービス業 |
売上時の勘定科目 | 売上 | 役務収益 |
仕訳例
役務収益の計上は、一時に履行義務が充足されるケースと継続して履行義務が履行されるケースがあります。
一時に履行義務が充足されるケース
例題1
当社はマッサージ業を営んでおり、顧客にマッサージのサービスを提供し、代金3,000円を現金で受け取った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 3,000 | 役務収益 | 3,000 |
マッサージは一時的なものであるため、一時に履行義務が充足されるケースに該当します。したがって、全額が役務収益として一時に計上されます。
継続して履行義務が履行されるケース
サービスが継続的に提供される場合には、履行義務の充足に係る進捗に合わせて役務収益に計上します。
進捗度の見積もり測る方法は、インプット法とアウトプット法の2つがあります。 インプット法の測定例は、労働時間や発生原価(原価比例法)などがあります。 アウトプット法の測定例は、生産単位数や引渡単位数などがあります。
例題2
当社は料理教室を運営している。×1年7月1日に1年分の会費120,000円を現金で受け取った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 120,000 | 契約負債 ※1 | 120,000 |
※1 役務を提供している企業が、役務提供の前に対価を受け取った場合、「契約負債」勘定で処理しますが、「前受金」勘定で処理することもあります。
例題3
×2年3月31日、例題2に関する決算整理仕訳を行った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
前受金 | 90,000 | 役務収益 | 90,000 ※1 |
※1 120,000円÷12ヶ月×9ヶ月=90,000円
x1年7月1日からx2年3月31日の9ヵ月分のサービスが当期に提供されたので、契約負債のうち9ヵ月分を当期の収益に計上します。
なお、商品の引き渡しではなくサービスの提供なので、「売上」勘定ではなく「役務収益」勘定で処理します。
役務原価とは
役務原価とは、役務の提供をするために要した直接的な費用のことをいいます。
「役務原価」勘定は、商品売買業の「仕入」勘定に相当するものです。
仕入と役務原価の違い
仕入と役務原価の違いは、「モノを売るために必要なもの」か「役務の提供に必要なもの」かどうかです。
商品売買業などでは商品を購入したときに「仕入」勘定を使用しますが、サービス業などでは役務の提供に必要なものを購入した場合、「仕入」勘定ではなく「役務原価」勘定をします。
業種 | 商品売買業 | サービス業 |
仕入れ時の勘定科目 | 仕入 | 役務原価 |
仕訳例
例題4
当社は料理教室を運営している。x1年10月1日、料理教室で必要な材料50,000円分を現金で支払った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕掛品 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
役務の提供をするために要した直接的な費用であっても、モノを購入した時点ではサービスが提供されていないため、「役務原価」勘定ではなく、「仕掛品」勘定で処理します。
なお、消耗品などを購入した場合でも、役務の提供をするために要した直接的な費用であれば、「消耗品」勘定ではなく、「仕掛品」勘定で処理します。
例題5
x2年3月31日、決算日を迎えた。例題4の料理教室は現在全体の8割が完了しており、購入した材料も同じ割合を消化している。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
役務原価 | 40,000 ※1 | 仕掛品 | 40,000 |
※1 50,000円×80%=40,000円
仕掛品と役務原価の違いは、役務収益に対応した費用かどうかです。仕掛品は未提供のサービスにかかわるものであるため、役務収益に対応しません。役務原価は提供したサービスにかかわるものであるため、役務収益に対応した費用になります。
勘定科目と損益計算書の表示区分
勘定科目(表示科目) | 損益計算書 |
役務収益 | 売上高の区分 |
役務原価 | 売上原価の区分 |
役務収益は売上高の一部、役務原価は売上原価の一部です。
具体例
問1
当社は資格試験の予備校を運営している。x3年1月25日、来月から開講する税理士試験の講座180,000円を現金で受け取った。
【解答・解説】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 180,000 | 契約負債 ※1 | 180,000 |
※1 前受金で処理する場合もあります。
問2
x3年3月31日、当期末の決算において、問1に関する収益を計上する。なお、決算日時点で全体の20%の講義が終了している。
また、問1に関する原価は仕掛品勘定に計上されており、終了した講義に関する原価は25,000円である。
【解答・解説】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
契約負債 | 36,000 ※1 | 役務収益 | 36,000 |
役務原価 | 25,000 | 仕掛品 | 25,000 |
※1 180,000円×20%=36,000円
まとめ
- 役務収益とは、役務の提供による収益のこといい、損益計算書の売上高の区分に計上される。
- サービスが継続的に提供される場合には、履行義務の充足に係る進捗に合わせて役務収益に計上する。
- 役務原価とは、役務の提供をするために要した直接的な費用のことをいい、損益計算書の売上原価の区分に計上される。
- サービスが継続的に提供される場合には、履行義務の充足に係る進捗に合わせて役務原価に計上する。