消費税法では、土地の譲渡や貸付け、さらには住宅の貸付けが非課税取引として定められていますが、土地や建物などの不動産の売買や賃貸に関する仲介手数料には消費税が課税されます。
本記事では、不動産取引における仲介手数料の取り扱いについて詳しく解説します。
目次
非課税取引とは
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う取引を課税の対象としています。
ただし、これらの取引の中には、課税対象になじみにくいものや、社会政策的配慮により課税されないものがあります。これらは「非課税取引」として定められています。
消費税法では、国内で行われる物品やサービスの提供のうち、消費税法別表第二に列挙された17項目の取引については消費税が課されないこととされています。
消費税の非課税取引
(1) 土地の譲渡および貸付け
土地には、借地権などの土地の上に存する権利を含みます。
ただし、1か月未満の土地の貸付けおよび駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税取引には当たりません。
(2) 有価証券等の譲渡
国債や株券などの有価証券、登録国債、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡
ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引には当たりません。
(3) 支払手段(注)の譲渡
銀行券、政府紙幣、小額紙幣、硬貨、小切手、約束手形などの譲渡
ただし、これらを収集品として譲渡する場合は非課税取引には当たりません。
(注) 支払手段に類するものとして、資金決済に関する法律第2条に規定する電子決済手段及び暗号資産(令和2年4月までは「仮想通貨」という名称が用いられていました。)及び電子決済手段の譲渡も非課税となります。
(4) 預貯金の利子および保険料を対価とする役務の提供等
預貯金や貸付金の利子、信用保証料、合同運用信託や公社債投資信託の信託報酬、保険料、保険料に類する共済掛金など
(5) 日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡および地方公共団体などが行う証紙の譲渡
(6) 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
(7) 国等が行う一定の事務に係る役務の提供
国、地方公共団体、公共法人、公益法人等が法令に基づいて行う一定の事務に係る役務の提供で、法令に基づいて徴収される手数料
なお、この一定の事務とは、例えば、登記、登録、特許、免許、許可、検査、検定、試験、証明、公文書の交付などです。
(8) 外国為替業務に係る役務の提供
(9) 社会保険医療の給付等
健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療など
ただし、美容整形や差額ベッドの料金および市販されている医薬品を購入した場合は非課税取引に当たりません。
(10) 介護保険サービスの提供等
介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなど
ただし、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は非課税取引には当たりません。
(11) 社会福祉事業等によるサービスの提供等
社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供など
(12) 助産
医師、助産師などによる助産に関するサービスの提供等
(13) 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
(14) 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け等
義肢、視覚障害者安全つえ、義眼、点字器、人工喉頭、車椅子、身体障害者の使用に供するための特殊な性状、構造または機能を有する自動車などの身体障害者用物品の譲渡、貸付け、製作の請負およびこれら身体障害者用物品の修理のうち一定のもの
(15) 学校教育
学校教育法に規定する学校、専修学校、修業年限が1年以上などの一定の要件を満たす各種学校等の授業料、入学検定料、入学金、施設設備費、在学証明手数料など
(16) 教科用図書の譲渡
(17) 住宅の貸付け
契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの(契約において貸付けの用途が明らかにされていない場合にその貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかなものを含みます。)に限られます。
ただし、1か月未満の貸付けなどは非課税取引には当たりません。
根拠法令等:消法2、4、6、消法別表第二、消令8~16の2、消基通6-1-1~6-13-11
上記の一覧にある通り、「土地の譲渡および貸付け」と「住宅の貸付け」は非課税取引とされています。
仲介手数料は非課税にならない
仲介手数料は「役務の提供の対価」であり、非課税にはなりません。
仲介手数料は、不動産会社が借主と貸主(または売主と買主)との間で行う土地や建物の売買・賃貸に関する取引を仲介する役務の提供(サービス)に対する対価です。そのため、これが「土地の譲渡及び貸付け」や「住宅の貸付け」に関連する対価とはみなされず、非課税取引には該当しません。
したがって、たとえ土地の売買や住宅の賃貸に伴う仲介手数料であっても、仲介手数料自体は役務の提供の対価であるため、課税対象となります。
仲介手数料と消費税の会計処理
土地や建物を取得する際に支払った仲介手数料は「付随費用」として扱われるため、必ず固定資産の取得価額に含めて計上する必要があります。
なお、土地や建物を購入する際に支払った仲介手数料には消費税がかかります。この消費税は、固定資産の取得価額に含める必要がありますが、別途消費税額として管理します。
具体的な事例
賃貸用の土地や建物を購入し、不動産仲介業者に支払った仲介手数料について考えます。
質問:「本件仲介手数料の消費税分は、支払った年の経費として計上できますか?」
答え:「本件仲介手数料の消費税分は、固定資産の取得価額に含まれ、消費税額として管理します。支払った年に経費として計上することはできません。」
理由
消費税法に基づき、仲介手数料には消費税が課税され、所得税法や法人税法により、購入時の手数料はその固定資産の取得価額に含まれることが決められています。消費税は別途管理し、取得価額に含めて処理します。
注意点
土地や建物の「取得」時に支払った仲介手数料の消費税は取得価額に含めますが、「賃貸」時に支払った仲介手数料の消費税は「支払手数料」として処理されます。
結論
- 土地や建物の取得時に支払った仲介手数料
→ 消費税を含めて取得価格に加算 - 土地や建物の賃貸時に支払った仲介手数料
→ 消費税を「支払手数料」として費用処理 - 消費税に関する重要な点
→ 仲介手数料には消費税がかかり、取得価格に含めて記録。
→ 消費税は経費として計上せず、取得価額に含めて管理。
土地付き建物の売買に係る仲介手数料は按分計算
土地付き建物をセットで購入した場合、支払った仲介手数料は土地と建物に分けて計算する必要があります。按分方法は、以下のいずれかの合理的な比率に基づいて行います。
(1) 譲渡時における土地および建物のそれぞれの時価の比率による按分
(2) 相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分
(3) 土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含みます。)を基にした按分
具体例
不動産に関連する仲介手数料には、取得と賃貸の2つの主要な種類があります。それぞれの取引において発生する仲介手数料の取り扱いは異なり、取得の場合は取得価額に含まれる一方、賃貸の場合は費用として処理されます。以下では、これら2つの例を基に、仲介手数料の計算方法や仕訳について説明します。
不動産の取得に係る仲介手数料
<例題>
当社は、内国法人A社が所有する土地付き建物(建物の時価2,000万円、土地の時価3,000万円)を5,000万円で購入し、不動産会社B社に仲介手数料100万円を支払いました。代金は普通預金口座から振り込みで支払いました。なお、土地付き建物は事務所として使用する予定です。
仲介手数料100万円は、役務の提供に対する対価として全額が課税仕入れに該当します。土地付き建物に係る仲介手数料は、時価等の合理的な比率に基づき按分計算を行い、土地と建物それぞれの取得価額に算入します。
- 建物に係る仲介手数料の計算
仲介手数料100万円 × (建物時価2,000万円 ÷ 合計5,000万円) = 40万円 - 土地に係る仲介手数料の計算
仲介手数料100万円 × (土地時価3,000万円 ÷ 合計5,000万円) = 60万円
なお、土地の取得価額に算入される仲介手数料は「土地」勘定で計上されますが、課税仕入れとして処理される点にご注意ください。
不動産の取得に係る仲介手数料の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
建物 | 20,400,000 ※1 | 普通預金 | 51,000,000 |
土地 | 30,000,000 ※2 | ||
土地 | 600,000 ※3 |
※1 建物に係る取得価額 = 20,000,000円(時価) + 400,000円(仲介手数料) = 20,400,000円(共通対応の課税仕入れ)
※2 土地に係る取得価額 = 30,000,000円(時価)(非課税仕入れ)
※3 土地に係る仲介手数料 = 600,000円(共通対応の課税仕入れ)
不動産の賃貸に係る仲介手数料
<例題>
当社は、内国法人A社が所有する土地付き建物(建物の時価5,000万円、土地の時価2,000万円)を、当社従業員の社宅として借り受けるため、不動産会社B社に仲介手数料50万円を支払いました。代金は普通預金口座から振り込みで支払いました。なお、社宅は従業員に有償で貸す予定です。
不動産の賃貸に係る仲介手数料は、「支払手数料」などの費用勘定で処理され、その税区分は課税仕入れとなります。なお、不動産の賃貸に係る仲介手数料については、原則として按分計算は不要です。
不動産の賃貸に係る仲介手数料の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
支払手数料 | 500,000 ※1 | 普通預金 | 500,000 |
※1 仲介手数料 500,000円(非課税売上に対応する課税仕入れ)
個別対応方式を採用している場合
個別対応方式を採用している場合、課税仕入れを「課税売上対応」「非課税売上対応」「共通対応」のいずれかに区分して経理する必要があります。仲介手数料に係る課税仕入れの区分は、不動産からどのような目的で収益を得るかにより決まります。
以下の表に、仲介手数料の用途別の区分をまとめました。
仲介手数料の用途区分
不動産の使用目的 | 課税仕入れの区分 | 備考 | |
---|---|---|---|
販売用 | 土地部分のみ販売 | 非課税売上対応 | 土地の譲渡(非課税取引)に対応 |
建物部分のみ販売 | 課税売上対応 | 建物の譲渡(課税取引)に対応 | |
土地付き建物として販売 | 共通対応 | 土地の譲渡(非課税取引)および建物の譲渡(課税取引)に対応 | |
賃貸用 | 土地部分のみ賃貸(期間1か月以上) | 非課税売上対応 | 期間1か月以上の土地の貸付け(非課税取引)に対応 |
土地部分のみ賃貸(期間1か月未満) | 課税売上対応 | 期間1か月未満の土地の貸付け(課税取引)に対応 | |
住宅として賃貸(期間1か月以上) | 非課税売上対応 | 期間1か月以上の住宅の貸付け(非課税取引)に対応 | |
住宅として賃貸(期間1か月未満) | 課税売上対応 | 期間1か月未満の住宅の貸付け(課税取引)に対応 | |
住宅以外(事務所用、店舗用など)で賃貸 | 課税売上対応 | 住宅以外の建物の貸付け(課税取引)および施設利用に伴う土地の貸付け(課税取引)に対応 | |
自社利用 | 本社事務所として利用 | 共通対応 | 会社業務全体に係るもの |
課税売上げのみを生じさせる施設として利用 | 課税売上対応 | 課税資産の譲渡等(課税取引)に対応 | |
非課税売上げのみを生じさせる施設として利用 | 非課税売上対応 | 非課税資産の譲渡等(非課税取引)に対応 | |
売上げの生じない施設として利用 | 共通対応 | 対応する売上げなし | |
用途未確定 | 共通対応 | 期末まで未確定の場合は共通対応。用途確定後はその用途に応じて区分経理 | |
個人事業者による事業と無関係な利用目的 | 不課税取引 | 「事業として行うものであること」の要件を満たさないため不課税取引 |
不動産の用途が期末まで未確定の場合は、共通対応として課税仕入れの区分を行います。取得時に用途が未確定であっても、期末までに用途が確定した場合は、その用途に応じて区分経理を行います。
個人事業者が自宅購入に伴い仲介手数料を支払った場合、事業用でないため不課税取引となり、仕入税額控除はできません。
なお、国外不動産の売買・賃貸に支払う仲介手数料は、土地や住宅の種類に関係なく、すべて課税売上対応の課税仕入れとなります。
まとめ
消費税法では、不動産取引における土地や住宅の譲渡・貸付けは非課税取引に該当しますが、仲介手数料は「役務の提供の対価」として課税対象となり、非課税にはなりません。
仲介手数料に対する消費税は、土地や建物を取得した場合、取得価額に含めて計上する必要があります。一方、賃貸時の仲介手数料の消費税は「支払手数料」として経費処理します。
また、土地や建物をセットで購入した際の仲介手数料は、土地と建物の時価や原価に基づいて按分して計算し、それぞれの取得価額に加算します。国外不動産の場合、仲介手数料はすべて課税売上対応として処理されます。
個別対応方式を採用している場合、仲介手数料は使用目的に応じて「課税売上対応」「非課税売上対応」「共通対応」のいずれかに区分して経理する必要があります。